ANANDASIA > COLUMN 1:「文創」という考え方

台湾に学ぶ「文創」という考え方
台湾に学ぶ「文創」という考え方 ヂェン先生の日常着 恵中布衣文創工作室 台湾

 

 

文創とはなにか-

 

 

 「文創」とは、昔から伝わる「よいもの」を生かして新しい文化を創造しようという意味。台湾で大きなムーブメントとなっています。次から次へと新しいものを生み出し古いものは捨てていくのではなく、 古き良きものを見直し再生することで新しい価値を作り出し、深みのある文化に育てていくという考え方です。

 最近の台湾では、歴史的建造物をリノベーションしてできた文化発信基地やレストラン、カフェ、民宿、ショップが増え、「MIT」と呼ばれるメイドイン台湾のものを扱うお店も多くできました。昔のよいものと新しい技術が溶け合うこの取り組みは、建造物や商品のみならず音楽やイベントなど他のコンテンツにまで広がってきています。

 

 

鄭惠中 ヂェン先生 台湾 恵中布衣文創工作室
惠中布衣文創工作室 ヂェン先生のアトリエ 鄭惠中 台湾 新北市 中和區

 

 

 台北近郊の新北市にアトリエを構える「惠中布衣文創工作室」。日本では「ヂェン先生の日常着」で知られる鄭惠中老師(先生)のアトリエです。先生は40年も前からこの「日常着(布衣)」を作り続けてきました。若いころ工業テキスタイルを専攻しテキスタイルメーカーで働いていらっしゃいましたが、大量に作られる化学繊維と流行の度に捨てられていく期限切れの服を目の当たりにしてその在り方に疑問を持つようになりました。もともと布が好きで台湾全土に残る手織り文化を訪ね歩いていた先生。台湾に残る伝統の布や衣服のデザインを現代に残したいと独立し、アトリエを構えました。

 

 

 

鄭惠中先生が考える「文創」とは-

 

ヂェン先生のアトリエは、数年前に「鄭惠中布衣工作室」から「惠中布衣文創工作室」に変更されました。そこには先生の台湾文化に対する思いが込められています。

その思いを先生に伺いました。

 

 

惠中布衣文創工作室 イメージ 自然 台湾 文化

 

 

 

-台湾文化には野趣があります。台湾人の生活に根付いている台湾仏教は「人」と「自然」の関係を説いているので、意識下にある「自然」の位置が近いのでしょう。

 

 私の服作りは、大量生産品でもなく作家ものでもない「皆が手に取れる着心地の良い服」を作るというところから始まりました。まずは、蒸し暑い台湾の気候に合う綿麻生地を一から選び直しました。染料も人体と環境にやさしいものを選び、色が染まらなくなるまで使い切るようにしています。工場のような細かい色管理をしていないので、同じ色の服は計画的にはできませんし色むらがあったりします。ですが、これがかえって味わいがあるということで、私の服は、舞踊家、音楽家、書家、茶人など台湾文化に携わる人々に愛されるようになりました。

 

 たくさんの方が私の服を通じて台湾文化を体現していく中で、伝統文化を継承し守っていく人々をサポートし文化を未来に残していきたいという思いが強くなりました。アトリエを改名したのも布衣(日常着)という「モノ」にフォーカスするのではなく、布衣を通じて起こる文化活動に重点をおいて欲しいという気持ちを表したかったからです。

 

 

そして先生はひとつの仏像を見せてくださいました。

 

 

  

 

-みてください。この仏像は3Dプリンターで作ったのですよ。古来からのものと現代技術の融合、これが「文創」の一つの形です。このように昔から愛されてきたものを未来へと引き継ぐ活動をしていきたいのです。

 

 現在、「台湾土狗(Taiwan to go)」というユニットを組み、台湾文化を発信する活動をしています。台湾の少数民族の独特な文化が途絶えないように、伝統を生かした製品の開発もしています。以前から、台湾舞踊や台湾楽器の音楽会、台湾茶會、読経会なども国内外問わず行っていて、アトリエでは記録としてイベントごとに冊子を作り配布してきました。現在、その活動の発信場所として、アトリエを拡張しギャラリーを作っている最中です。訪ねてきた皆さんが寛げるカフェスペースもありますよ。楽しみでしかたありません。

 

 

 先生の台湾文化への思いは、今後の活動を通じてもっと強くなっていくでしょう。このお話を伺った時は、ちょうど台湾の伝統楽器「月琴」の音楽会が開かれる時期で、先生は息子さんとその舞台設営の仕事をされていました。「衣」から広がる「文創」の動向に、今後も目が離せません。

 

 

 -次回はヂェン先生のアトリエをご紹介します-